比較検査:アルセロール・ミッタルvs.日本の鉄鋼メーカー
鉄鋼メーカー、アルセロール・ミッタルはフランスのフロランジュ製鉄所を閉鎖するといったん発表したが、その後国有化、半稼働状態での維持と次々と方針を変え、昨冬いっぱいフランス中じゅうをどきどきはらはらさせる心理ドラマを提供した。この危機は、インドの製鉄王と日本の鉄鋼の雄たちとを比べる絶好の機会となるかもしれない。アルセロールと日本鉄鋼企業側はなにを仕掛けるだろう、アルセロール側はなにをしないかの違いは何だろうか。そして、この業界が先進国以外で比較的元気な理由はどこにあるのか?
最初の答えはこうだ。日本の製鉄業は、国を挙げての巨大な産業連鎖の入口に構えた鎖目のひとつに過ぎなかった。その高炉の中に、造船、自動車、電気といった産業が巨大な需要を次から次へと途切れることなく叩き込んだ。だが、ヨーロッパ人と日本人の真の違いは研究開発の努力の差にある。本誌の調査では、2011年、アルセロール・ミッタルは売上高の0.4%を研究開発費に充てている。同グループの研究開発への注力度合いを測る数値、トンあたりの研究開発費はどうだろう。グループが1トンの鉄鋼を売った時、価格のうち3.3ユーロ分が研究開発費に充てられている。新日本製鐵(現新日鉄住金)の研究開発費は売上高の1.2%(トンあたり13.1ユーロ)、JFEスチールは0.7%(トンあたり6.7ユーロ)、住友金属(現新日鉄住金)は1.4%(トンあたり15ユーロ)。業界関係者は語る:「アルセロールに研究開発力があるとは言っても、他の製鉄大手のせいぜい半分から三分の一、ヨーロッパや日本の直接競合の四、五分の一に過ぎない。」
アルセロール・ミッタルにはない日本の製鉄業のもうひとつの強みは、産業プロセスの川上にまでさかのぼる多角化である。日本の製鉄会社は鋼を作ることだけに飽き足らず、製造に必要な工具まで作ってしまう。だから製鉄設備の建造会社やエンジニアリング会社を子会社化し、一大グループを形成するか、自分が属する財閥の企業と手を結んだりする。だから新日鐵には新日鉄エンジニアリング(現新日鉄住金エンジニアリング)、JFEスチールにはJFEエンジニアリングという子会社がある。「そこが日本の製鉄業の真の特徴だ。ここから言えることのひとつは、この業界のプロセスに関する研究開発力がはかなり凄いということ」と業界関係者は明かす。さらに日本の産業界は大学という非常に狭い世界とも繋がりを持っており、研究開発力を大幅に増強できる。ヨーロッパでは産学間に障壁がある。
最後にもうひとつ、アルセロール・ミッタルと日本の競合との違い、それは、アルセロール・ミッタルが顧客と直接繋がっていることだ。日本側は商社を通さなければ顧客に販売できない。この点だけは前者の勝ちだ。「自動車を除けば、日本の製鉄業は顧客のことをあまりよく分かっていない」と某業界関係者はみている。